カテゴリー「書籍・雑誌」の4件の記事

2010年10月30日 (土)

友野典男著の行動経済学を読んでみた

前回に続き、行動経済学ネタである。
今回は、友野典男著の「行動経済学 経済は「感情」で動いている」について書いてみる。

行動経済学
 
Koudoukeizaigaku

と言っても、この本は前回紹介した「予想どおりに不合理」と比べて難しい部分も多く、私も全て読んだわけではないのだが、最初の第一章で提示されている問題がなかなか面白いので、その中から気になった(というか私が間違った)問題を2つ紹介する。

1つ目の問題は以下のようなものである。(言い回しも重要なので、少し長いが問題分をそのまま引用する。)

問題1 
今、あなたはテレビのクイズ番組に出演しているとする。
何題かの問題に正解し、最後の賞金獲得のチャンスがやって来た。
ドアが3つあり、どれでもいいからドアを開けるとその後ろにある賞品がもらえることになっている。1つのドアの後ろには車が置かれているが、残りの2つのドアの後ろにはヤギがいるだけだ

あなたは、A、B、C3つのドアから見当をつけてAのドアを選んだとしよう。まだドアは開けていない。
すると、どのドアの後ろに車があるのか知っている司会者は、Cのドアを開けた。もちろん、そこにはヤギがいるだけだ。ここで司会者はあなたに尋ねた。
「ドアAでいいですか? ドアBに変えてもいいですよ。どうしますか?」
さあ、あなたならどうするだろうか。Aのままでもよいし、まだ開けられていないBのドアに変更してもよい。どちらを選ぶか?

私の答えは「変更しない」である。なぜなら、AとBが当っている確率はそれぞれ50%であるが、司会者が「はい、残念でした」と言ってAのドアを開けなかったことから考えて、Aの方が当る確率が高いように思ったからである。

実は、この問題の正解は「変更する」である。
ただし、間違えた悔しさ半分でケチを付けさせてもらうと、問題文が正確でないと思う。「あなたが選んだドアが当りか否かにかかわらず、司会者は必ずはずれのドアを開けてみせる」というルールの説明が抜けているのだ。
このルールの下で、当りがA, B, Cのそれぞれの場合を考えると、
・ Aの場合は「変更しない」場合に当り
・ Bの場合は「変更する」場合に当り
・ Cの場合は(この場合、司会者はBのドアを開ける)「変更する」場合に当り
となり、結局 2/3の確率で変更する方が当ることになる。
この問題は、「モンティ・ホール問題」と言って結構有名な問題らしい ・・・・ 知らなかった

2つ目の問題は以下のようなものである。(これもそのまま引用する。)

問題2
ある致命的な感染症にかかる確率は1万分の1である。
あなたがこの感染症にかかっているかどうか検査を受けたところ結果は陽性であった。この検査の信頼性は99%である。
実際にこの感染症にかかっている確率はどの程度であろうか?

私は「99%」と思ったのだが、回答をみると違っていた。
ここには回答は書かないが、ここで言う「信頼性 99%」とは、
・ 感染症にかかっている人をかかっていないと判断する確率
だけでなく
・ 感染症にかかっていない人をかかっていると判断する確率
も同じく 99%である、というのがミソである。
気になる人は本屋さんか図書館で。

では。

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2010年10月27日 (水)

通販でカニを買う(その4 そして、かなり強引に行動経済学)

その3から半年ぶりにカニを購入した。
今回も おなじみの かなはし水産だ。(実は、買ったのは1ヶ月以上前だが・・・・ )

商品は「訳あり☆本たらば【浜茹足】2.5Kg 5,980円」
 Kani20100908

そろそろカニを食べたいと思って候補を探していたのだが、期間限定品ということで結構お買い得オーラ がでていた。
実際、その時に かなはし水産で販売されていた 通常(?)の訳あり品のたらばは、以下のようなものだった。

「訳あり☆本たらば【浜茹足】3.0Kg 9,800円」
 Kani20100908_2

3.0Kgで9,800円という価格でも他店と比べて十分納得価格なのだが、それよりも更に安く、かつ「堅」「北海道産」と良いこと尽くめなので速攻で注文した。

それで届いたのが以下。

届いた商品
 Kani_pict

総重量は、2,650gで、(正確には数えていないが)約14肩くらいであった。想像していたより少し小ぶりではあったが、味は申し分なく、いつも通り家族で2晩で頂いた。

かなはし水産、お薦めです・・・・

と書いていつもであれば終わるのであるが、最近、「行動経済学」関連の本を何冊か読んだので、今回それと強引に関連付けてみる。

ウィキペディアによると、行動経済学

典型的な経済学のように経済人を前提とするのではなく、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の総称である。

と説明されている。

私は通常の「経済学」については全くの素人であり特に興味があるわけではないが、(私が読んだ)行動経済学の本には、人が何気無く行う選択の不合理さを例示する実験結果が多数載せられており、なかなか興味深い。(私の場合、本を読んだというよりも、それらの実験結果を拾い読みしたと言った方が近いかもしれない。

今回のカニの購入では、他の類似商品と比較して購入を決定したのであるが、それは(かなり強引だが)行動経済学に当てはめると「おとり効果」や「アンカリング効果」の類と言える。

「おとり効果」については、「予想どおりに不合理」という本に載っていた、雑誌「エコノミスト」の購読料の設定の例が面白かった。

予想どおりに不合理
 Yosoudoorini_3

購読料の設定は以下の通りである。

1.オンライン版の年間購読  59ドル
2.印刷版の年間購読     125ドル
3.印刷版とオンラインのセットでの年間購読  125ドル

これを見て、誰もが「この価格を設定した人はバカではないのか? 3と比較すれば、誰も2なんか選ばないだろう」と思うだろう。(実は私も思った

それでは、2の選択肢の存在価値は何であろうか?

2をなくして、

1.オンライン版の年間購読  59ドル
3.印刷版とオンラインのセットでの年間購読  125ドル

という2つの選択肢が提示された場合と、最初の3つの選択肢が提示された場合で、(雑誌名は自分の定期購読誌に読み替えて)自分ならどれを選ぶかを考えて欲しい。

そう、2は 3にお得感を与えるための重要な要素なのだ。

また、人は選択肢の中で極端なものを避け中庸を好むという性質(極端回避性)から、2つのランクの商品を売る場合、高い方を買わせるために更に高いものをラインナップに加えれば良いという話もでてくる。

これらのノウハウは既にマーケティングに広く利用されているので、知識として知っておくと面白い発見があるかも知れない。

次回は、友野典男著の「行動経済学」について書こうと思う。(→ ココです。) 

では。

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2009年9月27日 (日)

年金問題を考える (その2 「年金問題の正しい考え方」を読んだ)

以前の記「年金問題を考える (その1 未納が増えると年金が破綻する?)」、細野真宏さん著の『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? 』(以下、細野本と記す)を読んだ感想を載せた。
この本を読んで、年金の実態に少し興味を持ったので、

権丈教授著の「社会保障の政策転換―再分配政策の政治経済学V」を読むことにした。

と書いたが、細野さんの本を図書館に返却する際に、たまたま盛山和夫東大教授の「年金問題の正しい考え方」という本(以下、盛山本と記す)を書棚で見つけたので借りてみた。
今回は、その感想を書くことにする。

Moriyama_2 全体の構成は以下の通りである。

Ⅰ 信頼衰退の根源にあるもの
 第1章 年金に加入するのは損か得か
 第2章 世代間格差はなぜ生じたか
 第3章 格差と負担増をめぐる二つの誤解
Ⅱ 制度の持続可能性-二〇〇四年改正を検証する
 第4章 年金会計の基本
 第5章 年金の収支バランスを維持するには
Ⅲ 世代間と世代内の公平性
 第6章 相対的年金水準とは何か
 第7章 未納は本当に問題なのか
 第8章 基礎年金の消費税化を検討する
 第9章 年金の一元化とは何か
 第10章 税方式あるいは積立方式への転換論について
 終章  安心して信頼できる年金をめざして

一言でいうと、細野本と比べて読みやすくはないが、裏づけとなる数字を示した上で議論しているので、細野本を読んでいる時のような疑問や、それからくるストレスは感じない。
この本を読むことによって、細野本を読んだときに間違って理解した部分も分かったので、年金を理解する目的では非常に良い本と感じた。

以下に、順不同で、盛山本を読んで分かったことや私の感想を記す。

第1章「年金に加入するのは損か得か」では、現行の年金制度の元で、納めた保険料に対する支給額を比較して損得を説明している。結論は、国民年金は明らかな得(男性は1.66倍、女性は2.20倍)だが、厚生年金は事業主負担分を保険料に入れて考えると、男性の独身者の場合は年収500万以上で元本割れ、専業主婦のいる世帯では年収700万円以上で1.13倍程度で、通常の預金金利よりも悪いとしている。(ただし、障害給付や遺族年金などの給付の可能性まで考えれば、後者の場合は、まだ預金より良いのではないかというのが著者の意見である。)
これを読むとサラリーマンの私としては複雑である。我家は専業主婦世帯なので、独身男性よりはマシだとはわかっても、(欲を言えばきりがないが)国民年金との不平等感は正直気になる。

年金制度については、盛山本を読んで、相当賢くなった気がする。

1973年、2004年と年金改正があったのだが、この1973年の改正というのが大盤振舞、すなわち、保険料は低く支給額は高いという、破綻が約束された代物であったようだ。(盛山教授は「これは根拠のない高い収益率を約束して大勢の人から投資資金を集める詐欺集団のやり方に似ている」とすら言っている。)
更に1973年の改正では「賃金再評価性」と「物価スライド制」が導入された。盛山本には、

賃金再評価性は、新しく年金を受給し始める人の年金額を、それまでの平均賃金の上昇に合わせて(一般にこれは物価上昇率よりも大きいらしい:Toshi注)上昇させるしくみであり、物価スライド制は、すでに年金を受給している人の年金額をそのときの物価上昇に合わせて上昇させるしくみ

と説明されている。年金受給者にとっては、受給額が物価に対し目減りしない、非常にありがたい仕組みなのであるが、これを導入したばかりに、経済成長に応じて年金支給額が増えてしまい、経済成長しても年金財政が改善しないという、どうにもこうにもならない年金制度が出来上がってしまったようだ。

2004年の改正(概要は厚生労働省のHP資料「平成16年年金制度改正の概要」参照)では、保険料率を2007年(厚生年金の場合、給与の14.642%)から2017年(同18.3%)まで徐々に引き上げて、以降は固定することや、 マクロ経済スライドという考えが導入された。マクロ経済スライドというのは、「賃金再評価性」と「物価スライド制」のそれぞれに、調整率をかけて下方修正するというものである。
これにより、経済成長があれば年金財政に若干の余裕が生まれる。問題は、この調整率のレベルであるが、厚生労働省は「賃金上昇率を2.1%、物価上昇率を1.0%とした場合に、0.9%の下方修正を2005年から2023年まで行う」と言っているようであるが、盛山教授のシミュレーションでは、このような期間限定の適用では将来破綻する結果となっている。(賃金上昇率が4.1%でトントン)
0.9%の調整率というのは、「賃金再評価性」を半減、「物価スライド制」をほとんど打ち消すくらいのレベルなのだが、最低でもそれくらいは覚悟しなければならないということらしい。
これらのシミュレーション結果は将来の経済成長や出生率などにある仮定(予測)を置いた場合のものであるが、それらの予測がずれることによって、必要な調整率は変わってくる。2004年改正の1番のポイントは、このマクロ経済スライド調整率を、法律を改正することなしに将来変えることが可能になったことにある。我々から見れば、年金制度維持のための現実的な対策がとられたとも言えるし、将来の年金受給額に対する額の保証がなくなったとも言える。

2004年の改正で保険料率が規定されてしまったので、マクロ経済スライド調整率を高くすればするほど、現役世代の給与水準とそれに対する相対的な年金の支給水準の差が広がることになる。すなわち、将来、現役世代と年金受給世代の生活水準格差が広がっていくことを意味している。
盛山教授は、この解決策として、この格差が広がらないように、保険料率も徐々に見直していくべきと説く。つまり、2004年の改正でもまだ不十分ということである。要は、「将来に亘って保険料率を固定」とか「支給水準を固定」とかの約束はそもそも不可能で(それも、これまでの年金改正では、将来破綻する甘い水準で固定している)、将来の経済成長率や出生率を見ながら、世代間不公平が生じないように、収入(保険料率)と支出(支給率)を調整するしかないと言うわけである。
この意見は、数字の裏づけがあるだけに非常に説得力がある。

このように、盛山本は、年金制度の実態や年金問題の本質を理解する上で非常に勉強になる本で、細野本と違ってほとんど突っ込む場所はなかったのだが、1箇所だけ、三号被保険者(会社員世帯の専業主婦)の優遇問題に関する部分は少し引っかかった。
盛山教授は、専業主婦世帯は、少なくとも他の厚生年金世帯に対しては公平である(「同一拠出に対して同一の受給」)と結論付けているが、これは少し強引に思える。210ページのグラフを見れば一見して不公平なのは明らかなのだが、盛山教授は「同一拠出に対して」という前提を、答えが「不公平とはならない」となるような条件を選んで適用しているように見える。(もちろん、それはそれで嘘ではないのだが・・・・)

以下に、細野本を読んで年金制度に対して間違った理解をしていた部分について記す。(細野本が間違っていると言っているのではなく、あくまでも、私の理解が・・・・ という意味である。)

前回の記事で、

2009年度から高齢者に支払われる年金の半分は『税金』から支払われるようになっている

と書いたが、これは間違いで、正確には基礎年金部分の支出の半分ということのようである。盛山本によると、2003年度の年金収支では、年金の総支給額が40.8兆であるのに対し、基礎年金拠出額は15.4兆円、国庫負担は6.1兆円となっている。(2003年度は基礎年金部分の1/3負担のハズだが、6.1 x 3 - 15.4 = 3兆円の違いはよくわからない。)
2003年度ベースで国庫負担率が50%として考えると、総支給額に対する国庫負担は 6.1 x 3/2 ÷ 40.8 = 22% 、すなわち 全体の 20%強が税金ということになるので、赤字財政の中で相当な負担と言える。
盛山本の76-78ページに 2003年度の年金収支が分かりやすく載っているのでこれは必見である。(そもそも厚生労働省がこれらの情報を分かりやすい形で国民に提供していないのは、意図的に隠しているとしか思えない・・・・・

また、前回の記事で、細野本の記載内容に関連して

年金が「積み立て方式=自分の積立金を銀行預金のように自分のために積み立てる方式」ではなく「仕送り方式=今の高齢者の年金の支払いに使う方式」になっていることの利点を説明しているのだが・・・・

と書いたが、盛山本によると、現在の年金制度は、積み立て方式でも仕送り方式(盛山本では賦課方式)でもないらしい。その理由もちゃんと書かれており納得である。

最後に総括すると、結局、盛山本を読んで分かったのは、今後少子高齢化が進む中で、それに見合った形で、年金財政の収入と支出を調整(保険料率アップと支給率ダウン)するしかないという、当たり前の結論である。
以前抱いていた年金制度破綻の疑念については、将来、2004年の年金改正よりも更に現実的な改正が行われると思われるので、少しは解消した。が、その代償として、我々会社員の多くは(会社負担も含めると)元本割れになるのは覚悟しなければならないということである。
この基本構造は変わらない中で、後は、年金制度に存在する各種不平等が少しでも解消されるよう、または拡大しないよう、今後の制度変更に関心を持っていくしかないようである。(ちなみに、今時点では、私は一元化や消費税化には反対である。) 我々会社員には今後も保険料を払っていくしか選択肢がないのだから・・・・・

なお、冒頭にも書いた権丈教授の「社会保障の政策転換―再分配政策の政治経済学V」だが・・・・・
何だか読む気がなくなってきた

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2009年9月 5日 (土)

年金問題を考える (その1 未納が増えると年金が破綻する?)

Nennkin 2-3ヶ月くらい前のある休みの日の朝、テレビをつけていると政治家や大学の先生らしき人が年金問題の議論をやっており、その中の1人(後に、慶應大学の権丈善一教授だと分かった)が「年金は破綻しない」「詳しくは『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』という本を見てください」と言っていた。

この本の名前には何となく聞き覚えがあった(新聞広告か何かでみて何となく気になっていた?)ので、早速webで調べてみたところ、カリスマ塾講師の細野真宏さんの本だ。人気のある本らしく図書館では7-8人待ちくらいであった。早速予約したのだが、最近やっと借りることができたので、感想を書いてみる。

まず、恥ずかしながら私自身の状況を書いておくと、これまで年金の議論にはほとんど興味がなく、全くと言っていいほど知識もない。大学卒業以来、ずっとサラリーマンをしており、「自分と会社が折半で積立金を支払っているので、将来、それなりにはもらえるだろう」ぐらいの認識である。この本は、いかなる知識も前提とせず平易に書かれているので、私も先入観なく読ませていただいた。
この本の中に、権丈教授が月刊現代に書いた文章の引用が載っており、そこに「今の受験生ならばほとんどの学生がお世話になったはずのカリスマ講師兼経済書ミリオンセラーの著者」として細野さんが紹介されているが、残念ながら私の受験時代とは程遠く、細野さん自身に対しても何の先入観もない。

まず、最初に、この本の章構成は以下のようになっている。
 第1章 学力や思考力は日常の会話方法で飛躍的にアップする!
   ~世界一わかりやすい「論理的思考」の話~
 第2章 なぜ人は「宝くじの行列」に並んでしまうのか?
   ~世界一わかりやすい「本質を見抜く力」の話~
 第3章 なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか?
   ~世界一わかりやすい「アメリカ経済」の話~
 第4章 「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?
   ~世界一わかりやすい「年金」の話~

内容は全体に非常に平易で、手書き風の挿絵やチャートなどが数多くでてくる。気合をいれれば、考えながら読んでも2-3時間程度で読み終えそうなくらいの活字量である。
私の場合、通勤電車で読むことがほとんどなので、少しづつ読んでいった。
第一章から順に感想や気になった点を記してみる。

第1章 学力や思考力は日常の会話方法で飛躍的にアップする!

この本では結構いやらしいくらいに「数学的思考力」という言葉が使われている。「数学的思考力」と聞くと、私なんかは「論理的な考え方」と同じではないかと思ってしまうが、細野さんによると、
「数学的思考力」=「論理的思考」+「情報の本質を見抜く思考力」
ということらしい。
この章では、その「論理的思考力」の身に付け方を簡単に解説している。私なんかは、「情報の本質を見抜く思考力」の方に興味を持つのだが、それについては第二章で具体的に解説するとのこと。期待が膨らむ ・・・・。

第2章 なぜ人は「宝くじの行列」に並んでしまうのか?

宝くじの当選確率・期待獲得額の低さや、当りの多い(と噂されている)売場にできる行列を(本質を見ていない)例として挙げ、「本質を見抜く」ことの重要さを説くのであるが、これには?である。それくらいは、ほとんどの人は分かっており、単に験(げん)をかついでの行動だと思うのだが ・・・・・。
結局、「本質を見抜く」には、情報を鵜呑みにせず、よく考えろということのようだ ・・・・ そりゃ、そうだ。

第3章 なぜアメリカの住宅ローン問題で私たちの給料まで下がるのか?

この章からは、細野さんの力が入っているのが分かる。この章では、米国のサブプライムローン問題の構造を「数学的思考力」によって、大胆かつシンプルに整理している。それによると、本質は(一部、簡略化して記載すると)

「住宅価格の下落」 -> 「住宅ローンに問題が生じる」 -> 「世界の金融機関で金融危機が起こる」 -> 「金融機関の貸し渋りや倒産が起こる」 -> 「他の業界に影響が広まる」 -> 「景気悪化」

という連鎖で発生しているとのことで、元凶は「住宅価格の下落」であり、これがいつ止まるかに注目すべきと説く。
これが本当に正しいのかは私にはわからないが、非常にシンプルで分かり易い説明だ。
しかし、しばらく先に読み進めると、「住宅価格は金融危機の影響を受けて下落している面もある」ので「住宅価格の下落に歯止めをかける手段のひとつとしても金融危機を食い止めることが重要」と言う。
あれ、さっきと、因果が逆転しているんですが ・・・・・。 まあ、これらの事象は互いに関連しあっているのだとは思うが、だったら最初のシンプルな整理は何だったのだろうか?
また、「数学的思考力では、将来の方向性は読めても時期は読めない」と言う。つまり、「バブルは『いつかは』はじけるということは分かるが、『いつ』はじけるかは分からない」と言うのである。なるほど、確かに正直な説明なのであろうが、そうであればあまり意味がないと思ってしまうのは私だけだろうか ・・・・・。

第4章 「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?

この章がこの本の肝である。
まず、「『消えた年金問題』は事務的で一過性の問題であり、少子高齢化の進行によって現状の制度(仕組み)で安心できるかという方が問題」と書かれているが、これについては私も全く賛成である。
次に、現在の年金の制度が2階建てであることを説明した上で、いきなり、「若者でも、実際に払う保険料の1,7倍を年金としてもらえるので払い損にならない」、そのために「2009年度から高齢者に支払われる年金の半分は『税金』から支払われるようになっている」とアッサリと書かれている。エーーッ ていう感じである。
webでググってみると、従来から支給額の3分の1は税金が投入されており、それが2009年から50%になるようだ。恥ずかしながら、年金に税金が投入されるとは知らなかった ・・・・・    
私的には、それって既に制度が破綻しているとしか思えないのだが ・・・・・。  
「年金  国庫負担」でググって最初にヒットした「基礎年金国庫負担の引き上げ」というタイトルの読売新聞の記事によると、50%負担にするための財源について以下のように書かれている。

昨年12月に政府・与党が確保した財源は、財政投融資特別会計の積立金、いわゆる「霞が関の埋蔵金」と呼ばれるものでした。これを流用して09年度、10年度の財源を賄う方針です。しかし、埋蔵金は安定財源とは言えず、その場しのぎの対応としか言えません。

ウーーン・・・・・ ますます心配だ。このような状況で、「実際に払う保険料の1,7倍を年金としてもらえる」ことの保証はあるのだろうか。

その後、年金が「積み立て方式=自分の積立金を銀行預金のように自分のために積み立てる方式」ではなく「仕送り方式=今の高齢者の年金の支払いに使う方式」になっていることの利点を説明しているのだが、これがよく解らない。「インフレになったら年金支給額が増えるが、その分、積立金額も増やせる」というのが理由らしいが、インフレ時に積立金額を増やせるのは積み立て方式でも同じだろう。私には、今まで積み立てたハズの金がどこかに消えてしまっていることを誤魔化す論法のように聞こえてならない。

本書の表題になっている「未納が増えると年金が破綻する」という疑問に対しては、かなり最後の方で、「公的年金加入者のうち、7割強が第2号被保険者や第3号被保険者といった給料天引きの人たちなので未納にはなり得ず、残りの3割弱が未納の可能性がある人で、その中の20%が未納でも公的年金加入者全体に対する割合は5%程度なので影響は少ない」といった説明をしている。これはこれで論理的で何の異論もない。ただ、こんな単純な話なら、「もったいぶらずにもっと先に説明したら」と思うぐらいである。
この裏づけとして、153ページに、納付率が90%、80%、65%のそれぞれを仮定した場合の、2009年、2015年、2025年、2050年における基礎年金給付にかかる費用と、そのうち保険料でまかなえる金額の表がでており、「納付率によって、基礎年金給付費や保険料負担分が変わらない」ことを説明しているのだが、私には、この表で「基礎年金給付費」と「保険料負担分」の差、すなわち税金で補わなければならない金額が年々増えていくことの方が気になってしまった。具体的数字を書くと、10兆->11兆->14兆->29兆 というように大幅に上がる計算になっており(確かに細野さんが言うように納付率にはさほど影響されないが)そもそもの制度設計がマズイような気がする。

最後に、この本を読んでの私の感想をまとめると、「未納が増えると年金が破綻する」というのは確かに間違いのようであるが、「そもそも年金は大丈夫か」という疑問は全く払拭されなかった。(むしろ無知だった私に疑問の念が湧いてきた。)

【金曜討論】社会保障の財源をどうする? 権丈善一氏、峰崎直樹氏(MSN産経ニュース
といった記事を見ると、権丈教授は、社会保障の財源について「もちろん、ムダは削減すべきだが、その額と社会保障再建に要する額はケタが違いすぎる」として、国民の相応の負担増が必要と主張されているようであるが、私も、少なくともその議論を今すぐ始めるべきであると思う。(そして、それなりの負担増は已む無しとも。) ただ、「年金に強い不信感を抱く人は、細野真宏さんの『未納が増えると年金が破綻するって誰が言った』を読んではどうだろう。現行制度を正しく理解すれば、少しは安心できると思う」と言われているが、スミマセン、安心できませんでした ・・・・・   ので、権丈教授著の「社会保障の政策転換―再分配政策の政治経済学V」を読むことにした。(早速、図書館で予約。こちらは、1人待ち)

できれば、細野さんも「数学的思考力」を活用して、「未納とは関係なく年金が破綻する」という疑問に明快に答える本を出して欲しいものである。

では。

【2009年9月27日追記】
この記事の続編として、盛山東大教授の「年金問題の正しい考え方」という本を読んだ感想をアップしたので、興味がある方はどうぞ。 ==>
「年金問題を考える (その2 「年金問題の正しい考え方」を読んだ)」
また、その2のアップに伴い、本記事の表題を少し変えた。

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