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2009年9月27日 (日)

年金問題を考える (その2 「年金問題の正しい考え方」を読んだ)

以前の記「年金問題を考える (その1 未納が増えると年金が破綻する?)」、細野真宏さん著の『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? 』(以下、細野本と記す)を読んだ感想を載せた。
この本を読んで、年金の実態に少し興味を持ったので、

権丈教授著の「社会保障の政策転換―再分配政策の政治経済学V」を読むことにした。

と書いたが、細野さんの本を図書館に返却する際に、たまたま盛山和夫東大教授の「年金問題の正しい考え方」という本(以下、盛山本と記す)を書棚で見つけたので借りてみた。
今回は、その感想を書くことにする。

Moriyama_2 全体の構成は以下の通りである。

Ⅰ 信頼衰退の根源にあるもの
 第1章 年金に加入するのは損か得か
 第2章 世代間格差はなぜ生じたか
 第3章 格差と負担増をめぐる二つの誤解
Ⅱ 制度の持続可能性-二〇〇四年改正を検証する
 第4章 年金会計の基本
 第5章 年金の収支バランスを維持するには
Ⅲ 世代間と世代内の公平性
 第6章 相対的年金水準とは何か
 第7章 未納は本当に問題なのか
 第8章 基礎年金の消費税化を検討する
 第9章 年金の一元化とは何か
 第10章 税方式あるいは積立方式への転換論について
 終章  安心して信頼できる年金をめざして

一言でいうと、細野本と比べて読みやすくはないが、裏づけとなる数字を示した上で議論しているので、細野本を読んでいる時のような疑問や、それからくるストレスは感じない。
この本を読むことによって、細野本を読んだときに間違って理解した部分も分かったので、年金を理解する目的では非常に良い本と感じた。

以下に、順不同で、盛山本を読んで分かったことや私の感想を記す。

第1章「年金に加入するのは損か得か」では、現行の年金制度の元で、納めた保険料に対する支給額を比較して損得を説明している。結論は、国民年金は明らかな得(男性は1.66倍、女性は2.20倍)だが、厚生年金は事業主負担分を保険料に入れて考えると、男性の独身者の場合は年収500万以上で元本割れ、専業主婦のいる世帯では年収700万円以上で1.13倍程度で、通常の預金金利よりも悪いとしている。(ただし、障害給付や遺族年金などの給付の可能性まで考えれば、後者の場合は、まだ預金より良いのではないかというのが著者の意見である。)
これを読むとサラリーマンの私としては複雑である。我家は専業主婦世帯なので、独身男性よりはマシだとはわかっても、(欲を言えばきりがないが)国民年金との不平等感は正直気になる。

年金制度については、盛山本を読んで、相当賢くなった気がする。

1973年、2004年と年金改正があったのだが、この1973年の改正というのが大盤振舞、すなわち、保険料は低く支給額は高いという、破綻が約束された代物であったようだ。(盛山教授は「これは根拠のない高い収益率を約束して大勢の人から投資資金を集める詐欺集団のやり方に似ている」とすら言っている。)
更に1973年の改正では「賃金再評価性」と「物価スライド制」が導入された。盛山本には、

賃金再評価性は、新しく年金を受給し始める人の年金額を、それまでの平均賃金の上昇に合わせて(一般にこれは物価上昇率よりも大きいらしい:Toshi注)上昇させるしくみであり、物価スライド制は、すでに年金を受給している人の年金額をそのときの物価上昇に合わせて上昇させるしくみ

と説明されている。年金受給者にとっては、受給額が物価に対し目減りしない、非常にありがたい仕組みなのであるが、これを導入したばかりに、経済成長に応じて年金支給額が増えてしまい、経済成長しても年金財政が改善しないという、どうにもこうにもならない年金制度が出来上がってしまったようだ。

2004年の改正(概要は厚生労働省のHP資料「平成16年年金制度改正の概要」参照)では、保険料率を2007年(厚生年金の場合、給与の14.642%)から2017年(同18.3%)まで徐々に引き上げて、以降は固定することや、 マクロ経済スライドという考えが導入された。マクロ経済スライドというのは、「賃金再評価性」と「物価スライド制」のそれぞれに、調整率をかけて下方修正するというものである。
これにより、経済成長があれば年金財政に若干の余裕が生まれる。問題は、この調整率のレベルであるが、厚生労働省は「賃金上昇率を2.1%、物価上昇率を1.0%とした場合に、0.9%の下方修正を2005年から2023年まで行う」と言っているようであるが、盛山教授のシミュレーションでは、このような期間限定の適用では将来破綻する結果となっている。(賃金上昇率が4.1%でトントン)
0.9%の調整率というのは、「賃金再評価性」を半減、「物価スライド制」をほとんど打ち消すくらいのレベルなのだが、最低でもそれくらいは覚悟しなければならないということらしい。
これらのシミュレーション結果は将来の経済成長や出生率などにある仮定(予測)を置いた場合のものであるが、それらの予測がずれることによって、必要な調整率は変わってくる。2004年改正の1番のポイントは、このマクロ経済スライド調整率を、法律を改正することなしに将来変えることが可能になったことにある。我々から見れば、年金制度維持のための現実的な対策がとられたとも言えるし、将来の年金受給額に対する額の保証がなくなったとも言える。

2004年の改正で保険料率が規定されてしまったので、マクロ経済スライド調整率を高くすればするほど、現役世代の給与水準とそれに対する相対的な年金の支給水準の差が広がることになる。すなわち、将来、現役世代と年金受給世代の生活水準格差が広がっていくことを意味している。
盛山教授は、この解決策として、この格差が広がらないように、保険料率も徐々に見直していくべきと説く。つまり、2004年の改正でもまだ不十分ということである。要は、「将来に亘って保険料率を固定」とか「支給水準を固定」とかの約束はそもそも不可能で(それも、これまでの年金改正では、将来破綻する甘い水準で固定している)、将来の経済成長率や出生率を見ながら、世代間不公平が生じないように、収入(保険料率)と支出(支給率)を調整するしかないと言うわけである。
この意見は、数字の裏づけがあるだけに非常に説得力がある。

このように、盛山本は、年金制度の実態や年金問題の本質を理解する上で非常に勉強になる本で、細野本と違ってほとんど突っ込む場所はなかったのだが、1箇所だけ、三号被保険者(会社員世帯の専業主婦)の優遇問題に関する部分は少し引っかかった。
盛山教授は、専業主婦世帯は、少なくとも他の厚生年金世帯に対しては公平である(「同一拠出に対して同一の受給」)と結論付けているが、これは少し強引に思える。210ページのグラフを見れば一見して不公平なのは明らかなのだが、盛山教授は「同一拠出に対して」という前提を、答えが「不公平とはならない」となるような条件を選んで適用しているように見える。(もちろん、それはそれで嘘ではないのだが・・・・)

以下に、細野本を読んで年金制度に対して間違った理解をしていた部分について記す。(細野本が間違っていると言っているのではなく、あくまでも、私の理解が・・・・ という意味である。)

前回の記事で、

2009年度から高齢者に支払われる年金の半分は『税金』から支払われるようになっている

と書いたが、これは間違いで、正確には基礎年金部分の支出の半分ということのようである。盛山本によると、2003年度の年金収支では、年金の総支給額が40.8兆であるのに対し、基礎年金拠出額は15.4兆円、国庫負担は6.1兆円となっている。(2003年度は基礎年金部分の1/3負担のハズだが、6.1 x 3 - 15.4 = 3兆円の違いはよくわからない。)
2003年度ベースで国庫負担率が50%として考えると、総支給額に対する国庫負担は 6.1 x 3/2 ÷ 40.8 = 22% 、すなわち 全体の 20%強が税金ということになるので、赤字財政の中で相当な負担と言える。
盛山本の76-78ページに 2003年度の年金収支が分かりやすく載っているのでこれは必見である。(そもそも厚生労働省がこれらの情報を分かりやすい形で国民に提供していないのは、意図的に隠しているとしか思えない・・・・・

また、前回の記事で、細野本の記載内容に関連して

年金が「積み立て方式=自分の積立金を銀行預金のように自分のために積み立てる方式」ではなく「仕送り方式=今の高齢者の年金の支払いに使う方式」になっていることの利点を説明しているのだが・・・・

と書いたが、盛山本によると、現在の年金制度は、積み立て方式でも仕送り方式(盛山本では賦課方式)でもないらしい。その理由もちゃんと書かれており納得である。

最後に総括すると、結局、盛山本を読んで分かったのは、今後少子高齢化が進む中で、それに見合った形で、年金財政の収入と支出を調整(保険料率アップと支給率ダウン)するしかないという、当たり前の結論である。
以前抱いていた年金制度破綻の疑念については、将来、2004年の年金改正よりも更に現実的な改正が行われると思われるので、少しは解消した。が、その代償として、我々会社員の多くは(会社負担も含めると)元本割れになるのは覚悟しなければならないということである。
この基本構造は変わらない中で、後は、年金制度に存在する各種不平等が少しでも解消されるよう、または拡大しないよう、今後の制度変更に関心を持っていくしかないようである。(ちなみに、今時点では、私は一元化や消費税化には反対である。) 我々会社員には今後も保険料を払っていくしか選択肢がないのだから・・・・・

なお、冒頭にも書いた権丈教授の「社会保障の政策転換―再分配政策の政治経済学V」だが・・・・・
何だか読む気がなくなってきた

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